Pinky:st.という身体。
Text:くわね@まるち
■Web版公開にあたってのはしがき
下記の文章は、同人誌「GD#」vol.10(発行:GameDeep、2004年5月30日初版)に発表した文章に加筆、訂正を加えたものです。
文章の転載、引用についてはGamedeepのライセンスポリシー(略称:GPL)に準じるものとします(GPLについてはGamedeepのサイトに掲載されています)。
以下、GSIクレオスから発売されている「Pinky:st(ピンキーストリート)」というフィギュアについて語りたい。始めに、単語の定義だけ。「Pinky:st.」と書いた場合は商品全体を指し、「ピンキー」と書いた場合は商品の中の任意の個体を指すものとする。
■組み替え、ということ。
Pinky:st.の特徴は、それを構成するパーツの組みかえが自在にできるということである。それらパーツの中でもきわめて特権的な地位を持つパーツが、頭部を構成するパーツであろう。
前髪、後ろ髪、そして顔。ピンキーの頭部は大雑把にいえば3つの構成要素からなっている。この部分の組み合わせがピンキーの「個体」の識別にとってもっとも大きな要素となっていることは間違いない。また、そこが組みかえによって容易に変更できるというのはドールやアクションフィギュアとの大きな差異であると言える。
ドールの場合は髪は実際に「毛」なので髪型を変更するのはそれなりのスキルが要求される。多くのアクションフィギュアの場合、頭部は一体成形のため髪型の変更は事実上不可能である。
ではPinky:st.の場合は。
繰り返しになるが、頭部のパーツも組み合わせを前提に設計されており、それらは当然自在に、しかも容易に組み合わせることができる。
すでの10万通りを大きく超えているPinky:st.のパーツ群の組みあわせだが、そのうち髪と顔の組み合わせだけでも(似合う似合わないは別として)1000通りを超える組み合わせが存在する。
Pinky:st.が数多のフィギュア/トイの中で特別であるとするならば、まさにこの点をもってして、だ。限られた組み合わせの中からではあるが、これほど手軽に好みの「個」を作ることができるフィギュアなどというものが、これまで存在しただろうか?(もちろんこれは金谷ゆうき氏による適度なデフォルメがあってはじめて成立するものである。氏によるPinky:st.のデザインはユーザの様々な「見立て」を許容する。)
■おでかけ、おでかけ。
Web上のPinky:st.コミュニティでは、「おでかけ」という遊び方が、メジャーなジャンルのひとつとしてある。これは様々な場所で自分の所有するピンキーの写真を撮って公開するという行為だ。カメラを持っているPinky:st.のユーザなら、誰も一度はやっている(あるいはやろうと思っている)のではないだろうか。
この「おでかけ」は他のフィギュア/トイのコミュニティではあまり見ないものだ。もちろんそれはPinky:st.がPVCという樹脂で出来ているため多少手荒に扱ったくらいでは壊れない、という製品としての特性を持っていることもひとつ原因としてあるであろう。
しかし、それ以上にPinky:st.において「おでかけ」が発達したのは、やはりPinky:st.が組み換えフィギュアであったからであろう。
ユーザの好みにあわせて組み換えられた(場合によっては改造が施された)ピンキーは、ネットゲームのPC、あるいはコミュニティサイトにおけるアバター同様、外部に延長されたユーザ自身の身体であると言える。ユーザによるピンキーの写真は、ネットゲームのプレイヤーが撮るスクリーンショットと同等かそれ以上に、ユーザのセルフポートレートなのだ。
だからPinky:st.のユーザにとって他者の「おでかけ」は面白く、また自分でも「おでかけ」写真を撮ってしまうのだろう。
発売当初に食い付いたユーザの多くがいわゆる「オタク」層に属していたのは、もちろん流通上の問題もあったであろうが、もしかしたら「女の子になりたい」「かわいいものになりたい」という欲求をPinky:st.が解消してくれるから、かもしれない。
また、ユーザの一部からは版権モノPinky(Pinky:cos.)に対しての強い拒否反応が出ているが、これは上記の観点からすると「見立て」が既になされたピンキーが発売されることへの拒否反応と言えるのかもしれない。
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